自然と共に生きることは、特別なことでもなく当たり前のこと。
山ノ頂のプロジェクトを進めていく中で、岩手に生きた先輩たちから沢山教えてもらいました。
本当はすごく簡単なことが、とても難しくなっている今、あえて立ち止まって山と人の今までとこれからを深く考えてみたいと思います。自分たちの子供の代には、緩やかな空気と時間が山と人の間に流れていて欲しい。
そんな願いを込めて『山ノ頂』を立ち上げました。
私たちが住む岩手県は、自然豊かな山々に囲まれた景観が広がり、昔から自然を大切に自然とともに生きてきた暮らしが根付く場所です。
祭りや郷土芸能も盛んな地域で、その数は日本一と言われており、暮らしの中に祭りや芸能がある、そんな土地です。
郷土芸能は自然への感謝や命への供養を意味するものが多く、それほど山への信仰や繋がりを大切にしてきた地域と言えます。
岩手を代表する鹿踊り(シシオドリ)は、岩手県の各地に根付く郷土芸能です。
鹿踊りは、人が鹿の姿となり狩猟した鹿の命に感謝して弔う踊りでもあり、また人が亡くなったとき、鹿が人の命を供養する踊りでもあります。
獣の命を人が頂き生きること、そして人もまた土に還り、そこから草木が芽吹き鹿が食べ大きくなる。鹿踊りは、踊りという根源的な方法で万物の平等さや自然の循環を今に伝えていると私は捉えています。
京屋染物店は岩手県一関市で105年間、祭り衣装や郷土芸能衣装制作を通し、地域の祭りを支える仕事を生業にしてきました。
- 1. 害獣駆除された鹿の皮のプロダクト。
- 2. かつて鹿は地域の大切な資源だった。
- 3. 白黒つけない在り方が、この土地の厳しくも優しい精神性
- 4. 鹿皮は身近な高級素材
- 5. 山と人を繋ぐ革製品「山ノ頂(やまのいただき)」
- 6. <古いものを新しく使うHOGUCHI-IRE(ホグチイレ)>
- 7. <大切なものを小さく仕舞えるKOMONO-IRE(コモノイレ)>
- 8. <ちょっとしたお出かけに丁度良いTESAGE(テサゲ)>
- 9. パッケージについて
- 10. <商品のポイント①綺麗な皮にするために”鮮度”を保つ >
- 11. <商品のポイント②人にも自然にも優しい鞣(なめし)加工 >
- 12. <商品のポイント③一貫生産が可能にした、皮の柔らかさを活かす仕立て>
- 13. <商品のポイント④選べる3色 >
- 14. <商品のポイント⑤皮の傷 >
- 15. <山ノ頂 開発チームの紹介>
- 16. <応援メッセージ>
害獣駆除された鹿の皮のプロダクト。
岩手県では今、鹿や猪による農作物や樹木の被害が深刻な状況です。
※鹿に樹木の皮を食べられた痕
山の獣たちによる岩手県の農作物被害額は年間4億円以上となっており、その半数以上が鹿による被害です。(令和2年度、岩手県農林水産部調べ )
農家さんはせっかく育てた野菜が獣たちに食べられてしまい生活が困窮する事態になっており、農業をやめてしまう農家さんも増えている状況です。
山林でも若い苗木を鹿が食べられてしまい、林業でも深刻な問題になっています。
害獣駆除という形で獣の生息数をコントロールする活動も積極的に行われ、岩手では年間約20,000頭以上の鹿が駆除されていますが、駆除された鹿の9割は利活用されず、焼却か埋葬という形で廃棄されています。(令和2年度、シカ管理検討委員会調べ)
かつて鹿は地域の大切な資源だった。
かつては貴重なタンパク源であった鹿は、地域の大切な資源でした。
里の人は山からの恵を頂き、暮らしの糧としてきました。
山への感謝や畏敬を大切にする暮らしが、雄大な岩手の自然を今に繋いできた見えざる根幹です。
今、山と里の距離感や関係性が難しい局面に来ています。
かつて神の遣いなどと呼ばれ重宝されていた鹿は、いつしか害獣と呼ばれるようになり駆除の対象となりました。
鹿は、頭数が増えすぎたため山に食べ物が無く、食べ物を求めて里に降りてきています。
当たり前の話かもしれないですが、悪さをしようと思って農作物を食べているわけではなく、必死に生きているだけなのです。
一方、農家さんにも自らの生活があり、生活の糧となる農作物を食べられてしまうと本当に困ってしまう状況です。
目の前で自分たちのお金を鹿が食べていたら、誰でも黙って見つめているわけにはいかないと思います。
農家さんもまた生きるために、致し方なく駆除をしているだけなのです。
白黒つけない在り方が、この土地の厳しくも優しい精神性
鹿には鹿の正しさがあり、人には人の正しさがあります。
どうしようもない局面に来ており、駆除はやるべきだと私も思います。
駆除に対して様々な意見があるのも事実です。
しかし互いの痛みを見ないまま「鹿の命を奪うなんて可哀想だ」とか、「悪さをする鹿なんていなくなれば良い」という一方的な考えは、本当に正しいのでしょうか?
私たちは鹿踊りを踊る時、心も鹿に近づいている感覚を味わうことがありますt。
共に鹿踊りを踊る仲間がいるように鹿にも大切な仲間がいることを感じたり、シシの頭を外した時には、人間としても私には大切な家族がいることをいつも感じます。
かつての先人たちも鹿に対する可愛らしさや愛着を感じていながらも、生きる糧として命を奪うという矛盾や葛藤を丸ごと抱えていたからこそ、本当の『命への感謝』と『頂きます』があったのだと感じています。
鹿踊りは、獣と人との間を踊り、両者の痛みと喜びの間に生きることの大切さを雄弁に伝えてくれている芸能です。
私たちのプロジェクトは、抜本的に害獣被害の問題を解決することができるプロジェクトではありません。
しかし岩手が大切にしてきた『間で生きる』という見えざる精神性が少しでも伝わることが、かつてのような人と獣の良い関係性が未来に繋がって行く出発点だと信じ山ノ頂プロジェクトをスタートしました。
鹿皮は身近な高級素材
「有害駆除された鹿の命を少しでも価値に変え、岩手が大切にしてきた精神性を身近な暮らしの傍で感じることができないか」と考えた時に、思いついたのが鹿の皮を使った商品化でした。
そこで岩手の暮らしと皮との関係性を今一度勉強しようと、さまざまなフィールドワークに出かけた時に目にしたのが、岩手に暮らしていたマタギの道具たちでした。
マタギは山の掟に従い、山の恵を頂き無駄なく活用する狩猟集団です。
皮の多くはマタギの防寒着や狩猟をする際に鉄砲の火薬を入れる火口入れ(ほぐちいれ)として活用されていました。何日も山に篭って狩猟をするマタギにとって、火薬は絶対に濡らしてはいけない商売道具。
火薬を濡らしてしまうことは仕事ができないことと同じです。身近にある最も丈夫で防水性が高い素材の皮を袋にし、大切なものを入れて生活の道具として持ち歩いていました。
また鹿の皮はとても柔らかく驚くほど手触りが良い素材で、山梨では印伝のような工芸品にも活用される高級素材です。
もったいないから活用するということだけではなく、素晴らしい素材が身近にたくさんあるので価値あるものを価値あるものとして活用したいというシンプルな想いがそこにはあります。
害獣駆除された鹿の命を価値に変え、岩手の山と人との間にある精神性を身近に感じられる商品として、自然を大切に思う方々へ届けます。
山と人を繋ぐ革製品「山ノ頂(やまのいただき)」
山の頂に立って山と里の暮らしを同時に眺めるように、人も鹿も同じ世界に生きる対等な命であることを見つめて生きていきたい。山から頂いている命に感謝を込めて、『山ノ頂(やまのいただき)』という名前を付けました。
ロゴは岩手の山をモチーフに、山からの頂き物に感謝して人も獣も手を合わせている姿をイメージして作りました。
『山ノ頂』は、京屋染物店自社ブランド『縁日』の中の、山の獣たちの命を価値に変え未来へと循環させていくブランドとしてスタートしました。
ロゴとフォントは、京屋染物店の染職人で鹿踊りの踊り手でもある山田麻優が作成しました。
岩手県で駆除された鹿の皮を使い、暮らしの中でも使いやすい3種類のアイテムからリリースを開始しました。
<古いものを新しく使うHOGUCHI-IRE(ホグチイレ)>
マタギが火薬入れとして使った皮の巾着「火口入れ(ホグチイレ)」。
かつてはマタギたちの商売道具の火薬を雨から守ってきた丈夫な巾着をベースに、現代でも大切なものを仕舞うことができる小物入れとして制作しました。
口元もキュッと萎ませることができる仕様で、中の物が散らばることはありません。
周囲には鹿皮で作った革紐の飾縫いを手縫いで仕上げています。
▶︎サイズ
高さ12㎝×幅11㎝
▶︎使用イメージ
<大切なものを小さく仕舞えるKOMONO-IRE(コモノイレ)>
小さくて大切なものほど、意外と身近に多く、ついつい無くてしましがち。
そんな大切なものをしまっておけるちょうど良いサイズの小物入れです。
柔らかな鹿皮が、繊細なものも優しく包んでくれるKOMONO-IRE(コモノイレ)は、シンプルな作りで使いやすく、鹿の皮の質感が際立つアイテムに仕上がりました。
開口部がバネ口になっているので、開け閉めもリズミカルにできる便利な道具です。
ちょっとした小物入れとしても、コインケースとしても使える便利なアイテムです。
▶︎サイズ
高さ10㎝×幅8.5㎝
▶︎使用イメージ
<ちょっとしたお出かけに丁度良いTESAGE(テサゲ)>
ちょっとしたお出かけに丁度良いサイズの手提げバッグ。
携帯、財布、鍵など、身近な必需品をまとめ、これ一つでお出かけ出来ます。
紐も長さが調整できるので、お好みの長さに調整可能。
裏地のポケットもついているので、細かい仕分けが可能です。
裏地の生地の染色は、岩手の山で採れた杉や赤松など間伐材の樹皮から抽出した染料で染めています。
持ち手は鹿の皮に手縫いの飾り縫いを施しました。
飾り縫いの凹凸が滑り止めになり、快適に持ち歩くことができます。
紐は綿麻の紐を使用しています。
岩手は北上川流域を中心に麻の栽培が行われていました。寒冷で木綿が採れない代わりに麻を使い暮らしの衣服に活用する暮らしが岩手にはありました。
また麻は祭礼の道具として使われる植物で、鹿踊りの幕にも麻が使われています。
▶︎サイズ
高さ24㎝×幅17㎝×奥行き8㎝
▶︎使用イメージ

パッケージについて
ギフト用の箱入れも行っています。
箱は地元一関で100年以上、商品外装箱を手がけている金森紙器さんに制作をお願いしています。
手作業による「手貼り加工」にて製作しているため、高品質のシッカリとした化粧貼箱です。
箱入れなのでギフトとしてもお使いいただけるほか、箱は捨てずに小物入れなどにお使いいただけます。
パッケージには、「山ノ頂」ロゴが刻印された鹿皮を使っています。
製品には使えない鹿皮の端材を使い、皮を無駄なく全て使う工夫をしています。
刻印入りの皮は、紐などを通してキーホルダーとしてお使いいただけます。
<商品のポイント①綺麗な皮にするために”鮮度”を保つ >
皮の調達は、岩手県遠野市で原皮調達と処理を行なっている、「しかとくまや」の山田さんと連携して行います。 肉が腐るとその部位の皮にも影響がありただれてくるため、撃たれた後いかに早く、傷をつけずに皮を剥いで脂を落とすかが品質の良い皮にするための勝負どころです。山田さんは地元猟友会と連携をとり、捕獲後にすぐに処理・もしくは冷凍ができる体制をとり鮮度を保っています。最終保管は塩蔵(塩漬けで保管)しており、その塩漬けの加減の見極めも皮の良し悪しを決めるため、知識と経験を要する大切な工程になります。
<商品のポイント②人にも自然にも優しい鞣(なめし)加工 >
皮の鞣しは、兵庫県の有害獣皮を専門に鞣し加工されているportierra(ポルティラ)さんに依頼し加工をして頂いております。
ポルティラさんは有害な重金属や化学物質を使用しない独自開発の有機鞣剤を使用され「土に還る」を製造理念に生分解性に富んだジビエレザーを製造されています。(世界トップレベルの安全認証エコテックススタンダード100を取得されています。)
また皮革なめしの中間工程で発生する皮由来の副産物(産業廃棄物等)農耕肥料化の研究にも積極的に力を入れ、自然の循環を考えた生産を行っています。
portierra(ポルティラ)さんの環境や循環の考えは『山ノ頂』のプロジェクトと共感するところが多く、安心して作り続けて行ける会社として制作をお願いすることを決めました。
<商品のポイント③一貫生産が可能にした、皮の柔らかさを活かす仕立て>
鹿皮の縫製は、地元一関に工場を構える有限会社ガイアさんにお願いしています。
ガイアさんは裁断、漉き(すき)、縫製、刻印まで、全て自社一環で製造できる皮革の縫製工場です。
鹿皮は柔らかく手触りが良いことが特徴ですが、型崩れしやすかったり強度が出なかったりと柔らかさが裏目に出る場合もあります。
ガイアさんでは、各パーツに合わせ皮の特徴が活きるように使用する部位を考え裁断し、強度が必要な場所には伸び止め加工をするなど鹿皮の柔らかさが長所として生きる仕立てをしています。
皮自体にも個体差がありますが、自社一環で製造できるからこそ一頭一頭の特徴を活かすことができます。
<商品のポイント④選べる3色 >
色は、左から銀鼠(ぎんねず)色、ニビ色、炭(すみ)色の3色をご用意します。
岩手の自然をモチーフにした色味は、服装や性別年齢を問わず幅広くご使用いただける色味です。
あえて塗装はせず染めのみで仕上げ、自然を感じるナチュラルな風合いに仕上げています。
無塗装なので、使い続ける先の経年変化をお楽しみいただける商品です。
<商品のポイント⑤皮の傷 >
『山ノ頂』の商品は、鹿の傷をあえて隠さず残しています。
雑木林を駆け回ってついた傷やオス同士喧嘩をしてつけた傷からは、野生に生きた鹿一頭一頭のストーリーを感じることができます。
一般的な革製品では使われない傷の部分を、野生に行きた鹿皮の魅力として伝えていきます。
<山ノ頂 開発チームの紹介>
しかとくまや(岩手県遠野市)
山田 泰平さん「この革は、野生の獣の皮から生まれました。個体差があり、傷や穴があります。」 たくさんの方に何度もお伝えしてきて、それに理解いただいた方に革を使っていただいております。 一頭一頭、一枚一枚違った顔つきでそれぞれの味わいがあり、 作業の時、出来上がってきた革を見た時、私は彼らが生きてきた背景に思いを馳せます。 本クラウドファンディング主宰の京屋染物店様は、 「岩手の鹿革をつかった商品を生み出したい」という情熱をもたれております。 県内からの繋がりではなく、以前からお世話になっている鞣し委託先(タンナー)を通じて出会うことができました。 一朝一夕の思いつきではなく、何度も打合せを重ね、時には現地に来ていただいて、 晴れて公開となったこと、本当に嬉しく思います。 原料の革は、全て遠野市で撃たれた鹿から生み出されました。 遠野市の鹿による農作物の被害は年間1億円弱で、農家の方や山際に住む方々はその被害を日々嘆いています。 こうして活用されることで、少しでも里山を保全し被害を抑える機会に、農家の方々の今をお伝えする機会になれればと思います。 また、「害獣駆除」により、撃たれた獣は、山に埋められてその一生を終えることがほとんどです。 生命や自然の循環を継続するためにも、本製品をご活用いただきたいと願っております。 鹿の革は、「革のカシミヤ」と言われるほど、柔らかく、肌に馴染みます。 日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、海外では衣服にも使われたりもします。 道具として、身体の一部として、使っていただけると嬉しいです。
有限会社ガイア(岩手県一関市)那須野 奏士さん創業当時から私どもは長年、革製品の加工をしています。今回、京屋染物店様とご縁があり、岩手県の同郷ということで細かく打ち合わせを重ねながら制作を進めていきました。 お話をしていく中で鞣した鹿革を見させて頂いた所、ほかの革に比べ野生動物ゆえの傷や個体ごとのシボも楽しむごとができ、革に携わってきた私にとってはとても愛着が湧いてきました。 革製品というと牛、豚、馬、羊が多く、鹿はそれらに比べると野生動物とうこともあり流通量が少なくなかなか制作する機会もありませんでした。実際に手掛けてみると鹿革独特の柔軟さや伸縮性に難しさを感じる事もありましたが満足できる製品にできたと思います。 職人一同、一つ一つ大切に使って頂けるように心を込めて制作しています。鹿革本来の優しい肌触りや質感を楽しんでもらえれば幸いです。
portierra(兵庫県たつの市)
倉田 幸男さん
この度は志高な開発チーム『山ノ頂』の開発チームメンバーに抜擢頂いたこと、とても光栄存じます。
弊社も有害獣皮専門の鞣し業者として創業より5年が過ぎようとしていますが、有害獣問題は年を追うごとに悪化しているのが現状です。
此方をご覧頂いたファンディングパートナーの皆様に於かれましても、この度の有害駆除された獣達の命を無駄にしない為にも皆様のご支援で「害獣から財獣へ」蘇らせましょう。
金森紙器(岩手県一関市)
金森 敬一さん・京子さん
弊社は大正7年創業以来、100年以上地元一関で様々な企業様・商店様の商品外装箱を製作してまいりました。
2017年、これまでの単に商品を入れる外装箱という位置づけではなく、箱単体としても主人公となれる「化粧貼箱」の開発・製作に取り組むプロジェクト「貼箱工房Forest」を立ち上げ、総勢3名のスタッフにて箱の詳細な企画から制作まで全てをおこない、制作も機械に頼らないスタッフの手による「手貼り加工」にて製作しています。
この度、京屋染物店様にお声がけ頂き、工房スタッフ一同、商品・プロジェクトにかける思いをお聞きしながら化粧貼箱の企画・製作をさせていただきました。
贈り物などにもお使いいただきながら、箱も小物入れなどとしてお使いいただけると嬉しいです。
<応援メッセージ>
マガジンハウス 「コロカル」「こここ」プロデューサー
及川 卓也さん
人はさまざまなことをコントロールしながら生きているけど、都市で、あるいは地球全体で、人間は過信を膨張させてきてしまったのではないか。
気候変動、環境破壊、人と人のつながり…。
そろそろ僕たちは、自分たちの感覚を転換する時代に入っていると感じたりもしている。
科学がまだ未発達だった時代に、人は自然に神を感じて、畏れたり、感謝したり、祈ったり、捧げたり、先人たちはそうして生きてきた。
「山ノ頂」は、そうした感覚を人がもう一度取り戻すための、やわらかな装置になってくれる期待がある。
目先のことだけでない、長く未来へ続こうとする想像力を、鹿皮の小さなプロダクトが呼び覚ましてくれて、それによって、岩手で鹿子がまた踊りだす。
この気づきをもたらしてくれる京屋染物店の活動を応援します。
ローカルプロデューサー / 張山しし踊り舞手
富川 岳さん「自然と共に生きることは、実はとても簡単なこと」 先人たちは語る。当たり前のことをしているだけと。
かつて人と獣が同じ山で生きていた頃の、当たり前。
今回のプロジェクトはその感覚を取り戻す取り組みだ。
それも、力まず、緩やかに。 日々の暮らしに溶け込んでゆく持ち物として。
山に入らずとも、山に触れ、山を感じて欲しい。
そう思う一方で、いずれそんな意識もなくなって欲しいのかもしれない。
「山ノ頂」が在ることが当たり前になった時、 人と獣、人と山は、再び自然な形でつながるのだから。
これは、私たちが未来へ持っていくべき、古くて新しい持ち物である。
京屋染物店さんの活動を心から応援しています。
大日本猟友会 会長
佐々木 洋平さん
全国の野生鳥獣の農作物被害額は、年間約160億円以上となっており、国を上げて深刻な問題になっています。またハンターの高齢化に伴い、狩猟に関わる人材が不足することも、今後の大きな課題となっています。そんな状況の中、私が生まれ育った岩手からこうして素晴らしい取り組みが始まったことを大変嬉しく思います。
鹿の頭数をただ減らしていくのではなく、命に感謝して利活用していく中で、健全な生息頭数に戻していくことが本質的かつ理想的な取り組みです。 沢山の方に鹿皮の素晴らしい製品を使っていただき、山と人の関係性や狩猟についても関心を持っていただけると嬉しいです。
『山ノ頂』の発展が、今後の日本においての野生鳥獣と人との健全な関係性に繋がっていくことを期待しています。
ヘラルボニー 代表取締役副社長
松田 文登さん
「害獣駆除」という言葉には敬意やリスペクトを感じない。本プロジェクトがあることで、生命そのものに目を向ける社会や文化の醸成に繋がっていくはずです。目を瞑って背けるのではなく黙視する。買い物が投票権のひとつとなったこの時代に「害獣」の捉え方が変わるかもしれない。歴史をみれば、大きな社会変革は辺境から動き始める。まずは私も一歩目、改めて山ノ頂に感謝をしたい。
人類学者/秋田公立美術大学准教授
石倉 敏明さん
私たちは動物の一員であり、動物として生まれ、死んでゆく。私たちの血と肉と皮は、動物の時代から受け継がれてきたものだ。私たちの言葉と思考も、動物とともに、自然界の循環の中にある。 東北の鹿踊りには、山深い地域の自然の中に生まれ、世代を超えて受け継がれてきた動物の身体感覚が宿っている。私たちの身体にも、さまざまな動物の命が流れていることを、鹿踊りははっきりと教えてくれる。動物の命は、私たちの命でもあり、山々に満ちているあらゆる生物の命とつながっている。 大きな循環の環から外れた私たちの社会は、兄弟のように親しい一部の動物を「害獣」として駆除し、廃棄してきた。しかし、その身体を素材として活用し、肉として、骨として、皮として蘇らせることができれば、それらはもう一度私たちが属する共通の世界の一部となって再生するだろう。万物の生命を供養する鹿踊りの思想は、新たなものづくりの実践を生み出し、未来に結実する。
縦糸横糸合同会社/東京鹿踊代表
小岩 秀太郎
今私たちがここに存在しているのは、先人が山の獣=シシを頂くことで生き長らえてきたからだ。シシは私たちの体に直結している。
『山ノ頂』はシシの欠片だ。つまり私たちでもある。この欠片たちを手元に置き、眺め、撫で、使い続けることで、“私たち”と“山”とが離れすぎないよう、未来に継いでいくことができよう。
東北にはシシの踊りがある。人がシシに扮して同化する行為は、両者の関係や距離感を保つ術だったのだろう。自然と人間が同化しようとする眼差しと術を、シシ踊りと『山ノ頂』の両方で体感できるチャンスに恵まれた現代の私たちは幸運だ。そのどちらかでも受け渡していけることができるのなら、“山”はもっと美しく、豊かな恵みを与え続けてくれるだろう。